Objection






―― 正反対だった、何もかも

彼女は真面目で、彼は不真面目で

彼女は常に今の戦いを考えていて、彼が考えるのは楽しい事ばかりで

正反対を向いていた

だから交差するはずのない、道だった

・・・・昔は












「やっと見付けたわ!」

酒場のカウンターでリィナに熱心に話しかけていたシーナは、酒場中に響くかのような不機嫌な声にぎょっとした。

見れば、城に続くドアの前に眉間にしわをたっぷり寄せたアップルが立っていた。

「な、なんだよ。」

つかつかと歩み寄ってきたアップルのオーラに腰が引けてしまうシーナ。

その前に仁王立ちするとアップルはびしっとシーナに指を突きつけて言った。

「貴方ねえ、みんなが貴方を捜してたって言うのに、こんな所で油売ってるなんて言語道断よ!」

「油売ってるってのはリィナさんに失礼だろ?俺は美しい女性と語り合いにきてたんだから、暇つぶしみたいな言い方するなよ。」

「ふうん、美しい女性と語り合うためならオーシャン軍のリーダーさんとの約束を反故にしてもかまわないというわけね。」

言われて、シーナはあっと口の中で呟いた。

そう言えば昨日リオウに明日は作戦会議があるとか、なんとか聞いた事を思い出したのだ。

気まずそうにちらりとリィナを見れば彼女は魅力的にくすりと笑った。

「連れて行ってしまうといいわ、アップルちゃん。この人がリオウさんとの約束も平気で忘れて女を口説きにくる大罪人ですって言って。大てがらよ。」

「そうですね。そうさせて頂きます。」

アップルはリィナに笑いかえすとシーナの首に巻いているスカーフを掴んで引っ張り出した。

「てて!おい、アップル!やめろ!」

「そういうわけにもいかないわね。またヴァハル城の美人巡りツアーをするのはごめんだもの。」

あっさり突き放して、アップルはぐいぐいシーナを引っ張っていってしまう。

酒場を出た直後、中から大爆笑が聞こえた気がしたのは、気のせいではないはずだ。












シーナがやっとの思いでアップルの手からスカーフを奪い返したのは大広間の直前だった。

「たく、破けたりしたらどうするんだ・・・・」

ぶつくさ言っているシーナにアップルは鼻で笑った。

「格好つけたって中身がともなわなければ一緒よ。昔もそうだったのに、学習能力がないのね。」

ずいぶんな言われかたにシーナは軽く舌打ちする。

「昔は昔、今は今。それに今は中身もともなってるぜ。なんたって天下のリオウ将軍の部隊の前線で戦ってるんだから。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつも思うけど、リオウさんがなんでこんな人を前線で使うのかわからないわ。」

まるで頭痛に耐えるようにアップルが額に手を当てる。

その拍子にアップルの髪が彼女の頬を滑り落ちた。

ただそれだけ。

それだけなのだが、伊達に女に声をかけているわけではないシーナにはわかってしまう。

「・・・・お前は、変わったみたいだけど。」

「は?何が?」

小さく言ったつもりだったのに、聞きとがめてアップルが顔を上げる。

その顔を見て、思う。

髪は伸びたが、顔の造作が変わったわけでもない。

口うるさい所が変わったわけでもない。

物事なんでも難しく考え、言う所が変わったわけでもない。

でも、それでも彼女は









「年くった。」

―― 綺麗になった








本当の感想を憎まれ口の裏に隠してシーナは言った。

「あ、当たり前でしょう!もう3年たってるのよ!・・・・でも、失礼ね、その言いぐさは!」

怒って睨み付けてくるアップルは変わらない。

しかしシュウの側で補佐として腕を振るう時や、作戦を説明したりしている時、それほど大きな場面でなくともふとした瞬間に、アップルは3年前のアップルではない顔を見せる。

それは先の戦いでマッシュの死が影響しているのか、それとも他の何かが原因なのかシーナにはわからない。

ただわかるのは、今のアップルが自分の思ったことばかりを押しつけて憎まれ口を叩いていた少女とは違うという事。

軍師としての仕事を成功させた後、笑いながら唇をかみしめているのが今の彼女だ。

―― だから、なのだろう・・・・気になるのは

シーナは睨み付けてくるアップルの視線を交わして、大広間の扉に手をかける。

「あ!ちょっと!」

「なんだよ。作戦会議とかで俺を待ってるんだろ?」

そう言われて思い出した!というようにアップルは慌てて扉に駆け寄る。

そしてシーナを見上げてもう一度睨み付けると言った。

「いい加減に真面目に戦ってくださいね!」

「はいはい。」

「誠意が感じられません!」

ますます睨まれて、シーナは肩をすくめる。

そしてゆっくり扉を押しながら、言った。

「・・・・そろそろ変わるさ。俺も・・・・」

「え?」















―― 正反対だった、何もかも

でも、それは昔の事

彼女はいつの間にか、彼の反対とは違う前を向いていた

だから、彼もいつしか前を向く

・・・・それは道が交差するかもしれない先触れとなる

















                                                         〜 END 〜






― あとがき ―
幻水3つめの創作はやっぱり「2」のシーナ×アップルでした。
といってもこれ、×なのかよくわかんないんですけど・・・(^^;)
私的にこの創作ぐらいが幻水のノーマルカップリングの標準的甘さかなあ、なんて思うのです。
あんまりラッブラブ〜vvっていうかんじじゃないんですよ。
それも悪くないか、とは思いますが、自分で書こうと思うとおそらくそういう気持ち描写ができない・・・
しかし幻水を推薦してくれた友人がシーナ×アップルはKONAMIさんが狙ってやってると言っていましたが、そうだと思いますよ。
思うけど・・・ああそうだよ、はまっちまったよ!(<開き直り・笑)